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大川印刷が目指す環境に正しい考え方について




Introduction

大川印刷は、今年で142年目を迎える環境経営(*1)に注力している印刷会社です。

今回は大川印刷の6代目代表取締役社長である大川さんに、大川印刷見る、本当の意味の環境経営・サステナビリティについて、お伺いしてきました。



御社のビジネスについて、簡単に教えてください。

弊社は1881年に創業して、今年で142年目を迎えます

もともと創業者の実家が、薬種貿易商をしており、輸入医薬品のラベルの美しさに惹かれ、将来有望な産業になるであろうと印刷業を起業したのが始まりです。

ただ、2004年頃から、環境印刷という分野を、自分たちで作っていこうということで、私が2005年に代表取締役を務めるにあたって、環境経営にシフトしてきました。


2004年以降は、環境印刷というものに注力いたしまして、今現在は「風と太陽で刷る印刷」と呼んでいます。

太陽光パネルによる自家発電でおよそ20%程度。残りのおよそ80%を青森県横浜町というところの風力発電の電力を購入して、再エネ100%(再生可能エネルギー100%)を2019年に達成しています。


環境経営にシフトしてから環境を意識して始めた事業等あれば教えてください

現在、ご存知の通りペーパーレスが推進されていく中で、我々も新しい事業をいろいろと展開し始めております。今既にやっていることの一つとして、社会課題解決型スタジオ「with GREEN PRINTING」(環境印刷と共に)という名前のスタジオを作りました。あらかじめカーボンオフセットをして、CO2のゼロ化を行った上で配信や収録が安心してできるスタジオで、そちらを運営しています。


当スタジオでは、平均築100年の古民家の廃材を使用しています。また、その他にも建築現場で使われた足場をテーブルにしたり、リユースのカーペットを使用したり、全般的にサーキュラーエコノミー(*2)が感じられるスタジオにしています。スタジオでは動画の収録配信をはじめ、イベントの開催も可能です。またギャラリースペースがあり、そこでは「環境にやさしい」ではなく、「環境に正しい」商品を紹介していく取り組みを行っています。

2023年1月からは月に1回、社会課題解決に資するドキュメンタリー映画の上映会と交流会をスタートしており、4月の映画上映会では気候関連の映画を上映予定です。


2004年に環境経営にシフトしたきっかけは?

元々横浜生まれで、自然環境の豊かなところに生まれて、とても動植物や生物が好きでした。実際に社会に出てから、非常に大量の紙や電気を使う自分の商売にギャップを感じ、なんとかしたいなと思ったのがきっかけです。


まだ1990年代は社会の環境に対する意識はあまり高くはなかったのですが、そんな中で自分の好きなことと仕事を一致させる取り組みとして、環境経営にシフトしようと考えました。

6代目就任するにあたり、明確に社員にも社会にも訴えかけなければいけないと思ったので、社会的印刷会社という意味で「ソーシャルプリティングカンパニー®」というパーパスを考え、2004年に商標登録をしました。




脱炭素化に取り組むことで、社内で直面した困難や課題はありましたか?

社内的には、従業員が一致団結して、環境経営や脱炭素経営を推進していく意識をきちんとみんなで上げていくところが難しいと思います。それからコスト面です。現在スタンダードで使っている石油を全く含まないインキ(ノンVOCインキ)は、環境経営を始めた2000年代初めは、10%から15%高かったです。ですので、導入は困難に思えました。当初は他の印刷会社でもノンVOCインキを使う例はまだ少なかったと思います。


しかしながら弊社の場合は全面的にインキをこのノンVOCインキに変えることで、メーカーには価格を据え置きしてもらう協力をしてもらいました。

そしてお客さんが好む、好まないは別として、会社のポリシーとして石油系溶剤(*3)0%のノンVOCインキの使用を続けてきました。

その一方で現在電気代や燃料高の高騰もあり、紙代など材料費のアップが抑えられないのが大変です。 


対外的には、どのような困難や課題はありましたか?

対外的には今でこそ世の中もお客様も変わりつつありますが、2000年代初頭からつい最近まで、我々の取り組みはなかなか評価されませんでした。お客様に環境ラベルの提案をしても、「それはあんたがやりたいことだろう」とお客様に言われてきました。「お客様のためにつけた方が良いのですよ」と言っても、なかなか分かってもらえませんでした。

儲からなければ意味がない、環境よりも安いほうがいい、という考えもまだまだ多く、我々の製品を理解していただくのが大変でした。



脱炭素化に取り組むことで、自社や社会にどのようなメリットがあると思いますか?

2019年に再エネ100%を達成し、今になってメリットが出てきたと感じています。

例えば、弊社が使っている、全体のおよそ20%の太陽光発電は、日本で初めての初期投資無料のPTAという仕組みを利用して設置しました。ただそのかわりに、その投資してくれた会社に電気代として17年間支払い続けなければいけないというものです。しかし、その17年間電気代は変動しない定額なので、原料価格が高騰している今、これをやっていなければ100万円ぐらい多く支払わなければなりませんでした。 

もう一つは事業が時代にマッチしてきているからか、お客様からの問い合わせが絶えません。ただ難しいのは、細かいお仕事が多いので、売り上げを上げるのは容易なことではないと言うことです。


例えば、2021年度のお客様が90社に上りました。弊社は営業が5名程度の会社なので、新規顧客獲得数としては決して少なくないです。この2022年度もおそらくは同じぐらい80社から90社近くの新規のお客様がまた増えると見ています。


特に上場企業では、もう既にサプライチェーン全体の炭素排出量を開示していかなくてはいけないという決まりがあります。それに伴いお問い合わせも増えてきています。

特に上場企業では今後サプライチェーン全体の炭素排出量を開示していかなければならないことから、それに伴いお問い合わせも増えてきています。

その他、メディアの取り上げも増えています。その宣伝効果で新しいお客さんも獲得できるようになっています。


日本のサステナブル社会について、どのような課題があると考えますか?

いろいろな課題があると思うのですが「手段の目的化」が一番の課題だと思います。この脱炭素へ向けた活動の本質というのは、どこかに開示するいうのは、最終的な目的ではなく、気候危機を回避し持続可能な社会、地球にしていくことこそが目的です。その本当の目的を忘れて、手段の方に集中してそれが目的になってしまうということが多いと感じています。


SDGsはわかりやすく、お子様にも理解しやすいことは非常に良いことだと思いますが、その一方で大人が活動の本質的な理解を忘れてしまうことがあります。マイバッグを持ちました、マイボトルを持ちました、ということで満足してしまい、その先の目的をしっかり理解せずに終わってしまう人も少なくないことが課題だと思います。


社会全体が今後取り組むべき脱炭素化の課題や方向性は何ですか?

「Publish a Sustainable Future」というイベントでご一緒したハーチ株式会社の加藤さんから出た話でしたが、もしインターネットが国家だとしたらその電力使用量は中国、アメリカに次いで世界第三位となるそうです。

また世界人口53%の41億人が使っているインターネットの電気量はとても多く、2025年までには、さらに通信環境が整ってくるため、インターネットでのCO2排出量は2倍になると言われています。その他、Google検索1回のCO2排出量は名刺1枚作る際の電力のCO2排出量より多いことなどが紹介されました。


デジタルだからと言って環境に必ずしも影響が少ないわけではないことがわかります。

加藤さんはサステナビリティ は「What」よりも「How」に宿るのだと教えてくれました。

サステナビリティも間違った方向に進む可能性もあります。したがって、環境問題の本質をしっかり見極め、俯瞰的に見ることが重要だと思っています。


環境問題に対する手段を目的にせず、目的意識を持つにはどうしたらよいのか?

五感を研ぎ澄ませなければいけないと感じています。経済界の中にいると、CSR、SDGs、脱炭素経営などを、経済活動のためだけにやらなければならないと言った錯覚や誤解が置きがちです。

それを防ぐためにも人間の感覚として本来持っているのに鈍ってしまっている感覚を取り戻す必要があると思うのです。


今(4月)の季節だと暖かくなってきた風の感じ、風の匂い、気候、植物の変化を感じるなど、自身で自然を感じることも大切だと思います。現代社会で自然に触れる機会が少なくなると、何のために生きているのか、自らが自然と共に生かされていると言う感覚や意識が薄れがちです。そのようなことに気づかないと、気候危機を回避するために行動変容をしていくことは難しいのではないかと思うのです。



今後の脱炭素化の目標について教えてください。

SBT(*4)認定では2030年にスコープ3(*5)を含めてゼロ化を行うと設定しましたが、社内的には「2025年にゼロ化したい」と言った意見が出ています。しかしながら、実際はとても難しいことなので、どのようにしていったら良いか、改めて社員さんと一緒に話し合いをスタートしています。



最後にインタビューを終えて

大川印刷様にインタビューをさせていただき、周りに見せるような脱炭素化・SDGsへの活動というより、環境問題の本質を理解し、行動していくことが大切だというのがとても伝わってきました。個人としてもいろいろな情報を積極的に収集しに行き、何が正しい、何が本質的な問題なのかというのをしっかり理解するのが重要だと感じました。

大川印刷様の思いがなるべく多くの人に伝わり、少しでも多くの人がサステナブルな社会の実現に向けて行動できるようになっていけたら幸いです。



*1 環境経営:環境対応や環境保全を、企業活動を行う上での当然の責務と位置づけながら、同時に経済的価値を生み出し、企業価値向上を図ろうとする経営のこと

*2 サーキュラーエコノミー:資源導入や製品設計の段階から廃棄物を出さない

*3 石油系溶剤:原油から製造された有機化合物で、溶剤として広く利用されている化学物質のことを指します。また、大気中に放出されると、光化学スモッグやオゾン層の破壊など、環境に悪影響を及ぼすことが知られています

*4 SBT:Science Based Targetsの頭文字を取った言葉で企業が環境問題に取り組んでいることを示す目標設定のひとつ

*5スコープ3:事業活動に関係するあらゆるサプライヤーからの温室効果ガスの排出量